いつもの朝の散歩です。森を抜けて、いつもその前で立ち止まる大きな樹のそばまで来ました。
たとえば旅行に出かけたとします。朝早く起きて、ホテルの周りを散歩でもしようかとなって、ぐるっと回っているときのことを思います。旅先ですから、見慣れていない風景の中に自然があり、「こっちの道に行ったら何があるんだろう」や「これは大きな樹だね」などという感想を抱くでしょう。感動や驚きがあり、「旅はいいな」と感じるかもしれません。
でも思うんですけれど、それはその旅先での風景が見慣れていないからであって、もしも自分が住んでいるすぐそばの周りを、まるで初めて訪れたかのような新鮮な目で見ることができたなら、同じような感動や驚きが、あるいは喜びがあるのではないでしょうか。
そのように考えると、いつもの日々の中にも、それを初めて体験する人にとっては大きな喜びが隠されているのだと思います。
私が書く本は、そのような自分の考えに深く根ざしていると感じます。つまり、いつもの日々の中に旅を見出す。当たり前だと思っているものの中に、新しいものを見いだす。日常に隠れていた喜びや、驚きや、発見を描く。そのような考えのことです。
それはすなわち、知識ではなくて態度を伝える本であるともいえます。情報ではなくて方法を伝える本。調べてわかるものではなくて、自分で体験する本。そんなふうにも表現できるでしょう。
朝の散歩をしながら、そんなことを考えていました。
※この文章は結城浩の作業ログからの抜粋です。