2020年11月26日(木)


質問

結城先生は「自分を信じる」とはどういうことで、どんな状態で、また「自分を信じる」ためにはどうすればよいと思いますか。

「自分を信じる」ことができればうまくいくと思っている時点ですでに、わたしは自分を信じているのでしょうか。

回答

私は自分自身に対して「自分を信じる」という言葉をほとんど使いません。その一つの理由は、私は「神を信じる」という言葉を使うので、それと同じ意味合いで「自分を信じる」とはなかなか言えないからです。

もともと「信じる」という言葉は意味がいろいろあります。「神を信じる」というときには「神の存在を強く確信している」という意味でも使いますし「神を深く信頼している」という意味でも使います。

「自分を信じる」が持つニュアンスは「実際には自分が上手くできるかできないかわからない局面だが、自分がこれまでやってきた練習の量や質を思い出して、不安にならないようにしよう」という意味であることが最近は多いと思います。

いまから思い切ってやるべき場面で、不安になっていては逆効果ですから、自分を鼓舞するフレーズの一つと言えます。ですから「自分を信じる」という言葉をパラフレーズする(言い換える)ことに意味はありません。

私個人の話をすると「自分を信じる」というフレーズを自分に対して使うことはあまりありませんし、自分を信じればうまくいくとも思っていません。もっというならば、そもそも自分が考える「うまくいく」が真に自分にとって幸せなことかどうかもはなはだ怪しいと思っています。

なぜかというと、現在の私の人生を幸福な方向に向かわせている要因は、過去の私がまったく良いことだとは思わなかったことに端を発しているものが多いからです。

自分が、そのときどきに思い描く「こうなればいい」が、もしもその通りになったなら、私は現在のように幸せには生きていないでしょう。

とはいえ、そのときどきに願うことはもちろんあり、それが実現して欲しいと真剣に思います。そのときには私は「自分を信じる」ことで安心を得るのではなく「神を信じる」ことによって安心を得ます。

なぜなら、神さまは私のことを愛しているので、私の目には良くみえることであれ悪く見えることであれ、神さまの計画の中にあることであり、必ず巡り巡って私の幸福につながると私は「信じて」いるからです。どう転んだとしても最善だと思うことができるので、安心して思い切り進めるのです。

「自分を信じる」という気持ちを持って進んでも、現実にはうまくいくこともあればうまくいかないこともあります。現実ですから、自分の願い通りにいく場合もいかない場合もあります。うまくいかないのは自分を信じなかったからでしょうか。あるいは、自分を信じ切ることができなかったからでしょうか。

私はそうではないと思います。

現実は、さまざまな要因でいろんなことが起きたり起きなかったりするからです。それが現実です。「自分を信じる」ことができようができまいが、人間には限られたことしか見えません。また限られたことしかわかりません。「自分を信じる」ことで、起こることを人間が思い通りにすることはできません……というのは言い過ぎだけど。でも現実はそうです。

あることが起きるか、それとも起きないか。そのような大きなことを私は制御できません。私にはそんな能力はありません。しかし同時に、私が毎日見ている世界の認識や解釈も部分的であり、すべてを見通しているわけではありません。私にはそんな能力はないからです。

あなたの質問に戻ります。あなたは「自分を信じる」にはどうすればよいかを尋ねています。でも、あなたが求めていることは……本当に本当に求めていることは「自分を信じる」ことでしょうか。

そうではなくて、たとえば試験で合格するとか、誰かと仲良くなりたいとか、仕事が完成できるとかを願っているのだと想像します。つまり、叶ってほしい「大切な願いごと」があるのではないでしょうか。

私は「自分を信じる」ための方法はよくわかりません。でも、自分に「大切な願いごと」があるとき、私ならば次のようにします。

まず「自分を信じる」というフレーズではなく、「大切な願いごと」の方を具体的にパラフレーズ(言い換え)します。

そして、その願いごとが現実になるために、自分にできることを実行します。自分ではできず誰かの助けを必要とすることは助けを求めます。そして人間の力ではどうにもできないことに関しては、神さまに祈ります。そしてすべてが神さまのご計画のうちにあることを思い出して平安な気持ちになります。

あなたの求めている回答になっているかどうかはわかりませんが、私からの回答は以上です。ご質問ありがとうございました。

あなたが求めておられることや願いや不安が何であるかはわかりませんが、あなたのこと、神さまに祈っていますね!

なお、念のために書いておきますが、私は「自分を信じる」というフレーズを攻撃しているわけでも、「自分を信じる」というフレーズを使う人を非難しているわけでもありません。そもそも「自分を信じる」というフレーズで何を意味しているのかは、人によってずいぶん違うでしょうし。

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki

『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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